第一会員イチキ游子の「古墳に混乱コラム」【号外】 特別展「キトラ古墳壁画」報道発表会
投稿日:2014年02月05日
【号外】「疑問質問キトラ考」
4月に上野の東京国立博物館で開催される「キトラ古墳壁画」の報道発表会に同行することになった。
まりこふん会長から雨の上野駅に呼び出された時には、てっきり会長が古墳の次に愛するパンダを観に動物園に行くのかと思っていたのだが、実際は東京国立博物館の中で、報道関係者ばかりの、しかも今をときめくキトラ古墳壁画の報道発表会だという。
それも、古墳にコーフン協会・コラム担当という、世界一根拠のない名目で呼ばれたとのことで、さすがのシロウト第一会員ことあたくしにも緊張が走った。
そしてまりこふん会長は本当に走った。緊張とコーフンのため、こちらが止めるのも聞かず博物館めがけてダッシュで走りだし、案の定スニーカーを水たまりに思いっきりつっこんで入館前から足首ずぶ濡れになって少し落ち込んでいた。
13時。主催者の挨拶で報道発表会がはじまった。
映画館のようなミュージアムに集まった報道出版関係者の前でスクリーンに映し出される石室や出土品や展示計画。
それらを専門の方々が分かりやすく解説をしてくださる。
そしてついに、今回展示される壁画「朱雀」「白虎」「玄武」の姿が映し出された。
空想上の姿の鳥と亀と虎…。あれ、なんか予想と違う、いやにカッコいい。いや、トリとトラとカメなんだけど。
このシャープな姿とキャッチーなネーミング。わ…なんだこの深夜アニメ的萌える想いは…
「あたしは、玄武派です」
と会長が耳打ちしてくるのに対し、
「あたくし、白虎ですね」
となんだか即売会の腐女子のようなやりとりをしている間に、最後の質疑応答の時間になった。
専門家の方々からどんな質問が飛び出すのかと興味津々で誰かの挙手を待っていると、ふいに隣の会長があたくしの腕を小突くなり、悪魔の笑顔で囁いた。
「イチキさん、なんか質問ないんですか?」
…まがりなりにも協会長に対してなんだが「あんたアホか」と思った。
あたくしのような古墳白痴が本日こんな公の場にいるだけでも地雷まであと5cmだというのに、これ以上どんな危険を冒せというのか!
「あ、あるワケないでしょうが…(苦笑)」
精一杯の松田優作調でシニカルに受け流す。
…しかし、そう言いながらも実はあたくし、ひとつだけ聞きたいことがあった。
皆々様の解説のおかげで、どの地の古墳か分かりました。どんな壁画かも確認しました。展示会場の計画もとてもとても素晴らしいと思います。ところで…
「なんで『キトラ古墳』っていうなまえなんですか?」
どうしても知りたいことであった。キトラって地名ですか?人名ですか?日本にあるのに「キトラ」ってなんですか。完全なDQNネームではないですか。
しかし、あたくしの立場でそんなことを聞こうものなら、やっぱり上野に着いた時点でひとりパンダを観にいくべきだったと3年後悔するに違いない。
案の定、会場からは「石室の尺はどれくらい…」「顔料はどういった…」などといった専門的な質問が続発した。
ほらごらんなさい。やめといてよかったではないデスカ。
すると、ひとりの凛とした女史が挙手をして、さらりとこう言ったのである。
「なぜ、『キトラ』という名称なのですか?」
うっわ…神降臨…!
思わずスタンディングオベーションしそうになる衝動をすんででこらえる。
結果を言えば、どうもこの名前の由来についてはグレーゾーンらしく、『キトラ』とは壁画のうちの「玄武(亀)」と「白虎(虎)」から由来し、内部の壁画を当時すでに見たことがある人がいたのではないかという説やら、他にも諸説あるということで、一つの答えには至らなかったのであるが、その時のあたくしにとって正直それらはどうでもいいことであった。思うことはただひとつ。
(あたくしのしつもん、まちがってなかった…!)
もうこの低レベルなヤッタッタ感だけで3日はご飯が食べられると心底感動したことであります。
しかしやはりこうゆう場合、質問というものはこのやうに知識あるしかるべき人物がすべきなのであります。これをもし、ただでさえ客席で浮きまくっているあたくしが恐る恐る質問しようものなら、場内の皆様には
「バナナはおやつに入りますか?」
としか聞こえなかったに違いないのです。くわばらくわばら。
そんなこんなで、報道発表会は4月開催までの期待を存分に生み出し無事閉会。
博物館の外に出ると、上野の街は今年東京で初めて見るたいそうな雪に彩られていた。
ああいい日だね。じゃ、このままアメ横にでも繰り出しマスか、と歩き始めたあたくしの腕を会長がそっと握って微笑んだ。
「このすぐ近くに、いい古墳があるんですヨ…」
「・・・・。」
まあ実際、普段から想像を絶する古墳アドベンチャーに慣らされている身としては拍子抜けするほど「すぐ近く」に、その「摺鉢山古墳」はあった。雪に晒されこんもりと佇む小ぶりの前方後円墳で、春が楽しみなほど木々に飾られている…。なかなか良いところではないですか。しかし会長を前にうっかりそんなことを口にしてこの雪の中また新たな冒険がはじまってしまってはいかんと、黙ったまま素朴な摺鉢山古墳の頂上でまだ見ぬ春を想ひを馳せた。
…嗚呼、4月が楽しみだなあ。玄武と白虎と朱雀かあ、かっこいいカメとトラとトリに早く逢いたいなあ、モノホンはさぞやヒロイックでかっこよろしかろうなあ。その前にあすこのパンダは寒かろうなあ、会長のスニーカーと靴下はそろそろ乾いたかなあ…
そんな静かなる感慨にふけゆく、上野・雪の半日の一席でございました。
4月22日から東京国立博物館で「キトラ古墳壁画」だいぶオススメであります。
from.Yuko Ichiki
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特別展「キトラ古墳壁画」の情報は下記サイトで公開中です。
http://kitora2014.jp/
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