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熊本地震1年 難航する古墳被害復旧 入り口や内部が倒壊、危険で調査ままならず 石室内の装飾、劣化の懸念/熊本

昨年4月の熊本地震で、熊本県内の古墳では大きな被害が出た。特に熊本県は、古墳の石室内部や石棺に彩色や線刻を施した装飾古墳の数が全国最多として知られ、その劣化や損傷も懸念されている。しかし地震から1年を経て、石室内部が危険で人が入れず被害の全容がまだ分からない古墳もある。文化庁と県教委は昨年、識者らが被害状況を検討する委員会を発足させた。復旧は長期にわたるとみられ、課題は山積している。

県教委によると、県内の古墳の被害は41基(国史跡は13基)、うち装飾古墳は24基(国史跡は12基)に上る。被害を受けた国史跡の主な装飾古墳として、まず井寺古墳(同県嘉島町)が挙げられる。石室内を区切る板石に、線刻された同心円や直線の幾何学文様がある。地震により墳丘に亀裂が生じた上に石室の入り口付近が崩れ、入り口をふさぐ扉がゆがんで中に入れなくなった。このため扉付近の隙間(すきま)から小型カメラを挿入して内部を撮影、石室内に亀裂が生じ、石材が落下していたのを確認した。

釜尾古墳(熊本市)は、赤色や白色で塗られた石室内壁や、石室内の石材に赤、白、青の3色で描かれた同心円や三角形の文様で知られる。この古墳も石室入り口付近で天井の石材が落ち込んで危険な状態となったため、井寺古墳と同様に内部を小型カメラで撮影。石室内の石材の落下や土砂の流入があった。

このほか、石之室古墳(熊本市)では、石積みの家形石棺が倒壊。石棺内に描かれた線刻の装飾が損傷した可能性が指摘されている。永安寺東古墳(同県玉名市)の石室内では、赤色で描かれた文様のある石材が剥離して落下した。

文化庁と県教委の委員会が今年3月に開いた会合では、被害を受けた古墳の必要な応急処置や注意点などが話し合われた。古墳の中には、石室を構成する石材が外側へはみ出し、地震後にさらに動いて被害が進行しているものもあった。山尾敏孝・熊本大シニア教授(土木工学)は「地震後も安定せず、対策をとらないとまずい。妙案はないが、何とか動かないよう処置が必要」と提言した。文化庁の近江俊秀・文化財調査官は「地震後も定期的に古墳被害の進行度合いを確認する必要がある」と注意喚起した。

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古墳の復旧は難題だ。被害の全容が分からないと復旧工事に進めない。石室内部が危険で今なお調査できない古墳は井寺・釜尾両古墳以外にもある。小型カメラで撮影しても、解像度の点で限界があり、全容解明にはならない。近江調査官は「石室の天井石が落ちそうな古墳ではジャッキアップでも危ない。中に入るには安全性を確保するため、よほど準備しないと無理」とした上で「場合によっては、入り口など危険な部分を解体して復旧しながら石室内に入るなど、調査と復旧を同時に行うこともありうる」との見方を示した。

装飾古墳の場合はさらにやっかいだ。石室内の壁画や線刻の劣化を防ぐため、通常は入り口を扉などで密閉して、温湿度が一定になるように石室内の環境を安定させている。近江調査官は「石室に人とともに入ってくる雑菌で、カビが発生するのを防がねばならない。(気温が高い)夏は無理。中に入らないと被害が分からないが、中に入ると壁画を劣化させるリスクがある。石室内部の被害把握だけで何年もかかる。長丁場になる」と推測する。

どのように修復するのか。割れた石材をくっつけるだけでも、接着剤などに使う材料が石室内の環境に悪影響を与えないようにする必要がある。石材落下などで危険な石室については、つっかえ棒のような機材で内側から支えたり、発掘で石室を露出させて解体し、組み直したりする工法などが想定されている。しかし石室をいったん解体すると、石材の元の位置を動かしてしまうため、文化財の価値を失ったと判断される可能性もあり、慎重な検討が必要だ。

今回被害を受けた古墳について「震災のモニュメントとする考え方もあるべきだ」と提案したのは甲元眞之(こうもとまさゆき)・熊本大名誉教授(考古学)。「すべてを元通りにするのは財政的に無理。古墳の一部は今回の地震で壊れたことを示して、後世の警鐘とするのも選択肢」と話した。高妻洋成・奈良文化財研究所埋蔵文化財センター長(保存科学)も「地震で被害を受けても文化財としての価値は失われないという認識を持つことが大事。災害の痕跡を残すことで新しい価値が出てくる」と意義づけた。

文化庁と県教委は被害状況を6月までに報告書にまとめる方針。近江調査官は「国史跡なら、ある程度抜本的な復旧工事を視野に入れる。しかし無理なら、どこまで復旧させるかが課題となる。今後も専門家の協力を得て、復旧方法などを検討したい」と話した。

熊本地震で発生したような深刻な被害は、今後他の地域でも起こり得る。報告書には、将来の被害を予測する目的で事前に古墳の状況を把握するのに必要な調査項目も盛り込まれる。なかなか注目されないままだった古墳被害の実態に目を向け続ける意義は、そこにある。

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https://mainichi.jp/articles/20170409/ddp/014/040/006000c