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立入禁止の陵墓に迫る 研究者の地道な努力とは?

日本にある世界最大級の遺跡といえば、大山(だいせん)古墳(現、仁徳天皇陵)。大山古墳を含む「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群」は来年にも世界文化遺産に登録される可能性が指摘されていますが、そんななか、2018年10月に宮内庁と堺市が共同で大山古墳の発掘調査を行うと発表。研究者、古代史ファンの注目が集まっています。

しかし、そもそも、陵墓とは? 大山古墳はなぜ仁徳天皇陵とよばれるのか? など、疑問点も多々あります。そんな問いに答えてきたのが朝日新聞奈良版連載「天皇陵古墳を歩く」(2016年4月~2018年3月)でした。天皇陵古墳を取材してきた記者が、近年進む研究者への天皇陵公開立ち入り調査時の様子や、記者自身が行った箸墓古墳についての情報公開請求の貴重なエピソードを紹介します。

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■天皇陵古墳とは?

日本最古の大型前方後円墳とされる奈良県桜井市の箸墓(はしはか)古墳は、中国の歴史書に記録された倭(わ)の女王・卑弥呼の墓という説もある重要な古墳です。古墳時代の幕開けを告げる箸墓古墳は、古代国家成立の鍵を握っているとも言えるのですが、宮内庁が「陵墓」として管理しているため、研究者であっても立ち入ることを禁じられています。そんなベールに包まれた天皇陵古墳の謎に迫ろうしてきた、ある研究者がいます。連載「天皇陵古墳を歩く」の筆者・今尾文昭さんです。

陵墓とは天皇、皇后をはじめとする皇族のお墓のことです。宮内庁が管理と祭祀を行います。原則非公開で、たとえ研究や調査の目的であっても、自由に立ち入ることは禁じられています。考古学ではこうした陵墓を「天皇陵古墳」とよんできました。

■研究者の粘り強い交渉で天皇陵への立ち入りが認められるようになった

今尾さんは、全国有数の考古学専門の研究機関として知られる奈良県立橿原考古学研究所(橿考研)の研究員として長年勤務し、現在は大阪の関西大学で非常勤講師として教壇に立ちます。天皇陵古墳研究の第一人者で、宮内庁が採集した資料報告や周辺で行われた発掘調査の成果、文献史料や絵図などを駆使して研究を進めてきました。研究者が陵墓に立ち入って墳丘を観察することができるように、研究者仲間と一緒に宮内庁と交渉を続けてきました。

地道な努力が実り、宮内庁が内部規則を変更し、2008年2月、考古学や歴史学などの10以上の学会の代表者たちが、宮内庁の許可を得て、初めて天皇陵古墳に立ち入ることができました。それ以降、今尾さんも箸墓古墳や野口王墓古墳(奈良県明日香村、現、天武・持統天皇陵)など10カ所余りの天皇陵古墳に入って観察してきました。

■立ち入り観察とは?

私も今尾さんたちが箸墓古墳などに立ち入って観察する様子を、墳丘の外側から取材したことがあります。学会のメンバーたちは、宮内庁の担当者に先導されながら墳丘の裾部をゆっくりと歩いて観察するだけです。ルートを外れ、墳丘の頂上にのぼることも許されません。ただ歩いているだけのように見えるのですが、研究者にとっては墳丘の裾部を歩くだけで新たな情報を得ることができるそうです。連載では、今尾さんが墳丘内に立ち入ったときの率直な感想や貴重な情報も記されています。

■情報公開請求でわかった箸墓古墳墳丘の様子

また、私たちメディアが情報公開請求という手続きを行った結果、宮内庁が過去に行っていた発掘調査の未発表資料が公開されることもありました。私が2012年夏に箸墓古墳についてのデータを情報公開請求したところ、宮内庁が1968年に箸墓古墳の後円部と前方部の頂上部を調査していたことを示す写真や書類、実測図などが開示されました。

多くの研究者は、そんな調査があったことさえも知りませんでした。一番驚いたのは、後円部の最上段が石だらけだった様子が写真に収められていたことでした。私たちは今尾さんを含めて複数の研究者に集まってもらい、この資料について検討していただき、紙面化しました。宮内庁がもっと早く公開してくれていたら、前方後円墳の誕生をめぐる研究はもっと進んでいたのに、と悔まれます。

■共同発掘調査をきっかけに

2016年4月から2018年3月まで合計79回にわたって朝日新聞奈良版に連載された「天皇陵古墳を歩く」では、今尾さんが様々な資料から得た古墳ひとつひとつについての膨大な知識に加え、奈良県内のすべての天皇陵古墳を実際に訪れ、現場で見て、感じたことも紹介し、最前線の難しい研究の中身をかみ砕いて、読者の皆さんに伝えてきました。その連載に、列島第1位の超大型前方後円墳として知られる大山(だいせん)古墳(現、仁徳天皇陵)を含む大阪府の百舌鳥(もず)古墳群や古市古墳群を追加して1冊の本にまとめたのが『天皇陵古墳を歩く』(朝日選書)です。

ちょうど2018年10月下旬から、宮内庁と堺市による大山古墳の発掘調査が始まりました。宮内庁が地元自治体と共同で発掘調査するのは初めての試みです。これを契機に天皇陵古墳をめぐる議論が深まって欲しいと願っています。(朝日新聞大阪本社生活文化部次長・塚本和人)

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