第一会員イチキ游子の古墳に混乱コラム

第二回「冒険者考」

投稿日:2013年10月21日

第二回「冒険者考」

今年の6月末、会長とふたりで古都鎌倉を訪れた時のことである。

目的はまりこふん会長と理事のヨザワマイ氏による古事記と古墳のトークライブ「コジフン」の資料集めで、鶴岡八幡宮で行われる神事「大祓」の取材。
当日ヨザワ理事の都合がつかず、代理であたくしが助手として同行することになったわけである。

晴天の古都鎌倉。小町通りに着いて早々、鎌倉ビールで乾杯スタート。浮かれて散策のち、神聖で盛大な大祓の儀を堪能。「茅の輪(ちのわ)くぐり」と言われる巨大な輪をくぐる神事にも参加して、本殿をお参りの後は、美味しい天ぷらそばをいただきながら楽しく談笑。

嗚呼、享楽の夏空に溶けゆく堕落の脳髄…。

唯一、大祓の時の「茅の輪くぐり」を「火の輪くぐり」だと思い込んでいた会長が、猛獣が出てこないことに本気で落胆していた以外は、なんだかんだ取材という名の鎌倉バカンスをエンジョイしたものである。
もう、なんて素敵にジャパネスク!

第二回「冒険者考」

小町通りをウィンドウショッピングしながら、このまま由比ヶ浜でも繰り出して、ビール飲みながら海を眺めて帰るのもオツですな。などと地上5cmをふわふわスキップしていたあたくしの耳に、

「実はね、隣駅の逗子に古墳があるらしいんですよ」

と会長が楽しげに言うのが聞こえた。

「よければ、古墳アドベンチャーしませんか?」

そう言ってあたくしを振り返った会長のつぶらな瞳は恐ろしいまでにキラキラと輝いていた。
「・・・」

この時、あたくしがとっさに返事が出来なかったのは、別に「旅の終わりは海でビール計画」が頓挫することへの無念さからではなかった。

「古墳アドベンチャー」

その言葉に、来たるべき試練の訪れを知ったからである。

…会長の推奨する古墳巡りの醍醐味に「古墳アドベンチャー」があるということは聞いていた。
あらかじめ場所が分かっている「大手の」古墳ではなく、存在があやふやで時には地図にも載っていないUMAにも等しいような古墳を、持ちうる少ない情報とカンだけを頼りに足で探し続ける。下手をしたら何時間も見つからないまま野垂れ死にする者もあるという決死の古墳巡り、嗚呼オソロシイ、それが古墳アドベンチャー…!
「・・・」

だがしかし、会長の希望に満ちた瞳に、何も言えなくて…古墳。

神に拉致されるように逗子駅前からバスに乗り込み30分後…。

古墳の存在を示す落書きのような看板を頼りに歩き出して気が付くと、我々は意味がわからないくらい山奥でやっぱり迷子になっていた。

第二回「冒険者考」

「・・・」

人けのない道なき道を、歩きに歩くこと約2時間…。
地図を検索しようにも、逗子の山頂では携帯電話の電波も役に立たず、暮れ行く道を黙々と進む中、古都鎌倉ではあんなに饒舌だった2人の間には重い沈黙が垂れ込め、会話もいつしか失われていった。正直、疲労が限界に達していた。

あたくし後悔した。…なんであの時「古墳はまたにして由比ヶ浜でビール飲みましょうヨー」の一言が言えなかったのだろう…。お調子者に徹しきれなかった己の不甲斐なさを呪う。

ああ、疲れた…今夜は野宿か。お腹すいたな。…ところで足元のこの野草は食べられるだろうか…

『根性のないヘタレはすぐ極論に走ります…』

第二回「冒険者考」

しかし、その後もアテ勘でけもの道に立ち入っては間違いに気づき、またバス停まで立ち戻るという行程を何度も繰り返しているうちに、それまで気づかなかったバス停の死角に、我々はあるものを発見したのである。

…すっげーわかりやすい地図、あんじゃねえかよ…

最初からこれを見てればほぼ迷うことなく辿り着けたであろう巨大な地図がバス停に背を向けた状態でそびえ立っていた。
脱力感に思わず大沢逸美のようなシニカルな笑顔で地図を見上げる二人。

まったく、手間、かけさせやがって…ッ!(苦笑)

第二回「冒険者考」

顔を見合わせ頷きあい、夕日に向かう不良少女のような足取りで再び古墳を目指し駆け出す会長とあたくし

そして・・ついに発見。
散策すること10数分。地図通りに辿ったやはりけものじみた山道の中腹に、あたくしの素人目にもハッキリそれと認識できる小ぶりの前方後円墳が、2基。ひっそりと人目をさけるように佇んでいたのである。

か・ん・ど・う…

第二回「冒険者考」

薬師丸ひろ子のような感情の読めない表情でただただ感無量の二人。
疲れが吹き飛んだと言ったら過言だが、誰も来ないだろうこんなところでやっと見つけた古墳を見るのはやはり恐ろしく感動的だった。
ああ、やっと会えたこの達成感。充足感。これが…古墳アドベンチャー。少しだけ、分かった気がします。貴重な試練をありがとう会長!

夕陽に照らされてうっとりと一号基を見つめる会長の横顔に、そっと感謝の念を送る。

泥だらけになったスニーカーを見ながら、古都鎌倉のバカンスは白昼夢だったのだと思うことにした。

そんなことより、また一歩、古墳との距離が近づいたことが今日一番の収穫だと思えたからである。
古墳アドベンチャー、これ、アリです会長。またお願いします!

…まあ、2年半にいっぺんでじゅうぶんですが…。

第二回「冒険者考」