第一会員イチキ游子の古墳に混乱コラム

第四十八回「哀愁古墳巡考」

投稿日:2021年6月2日

ご無沙汰しております。古墳にコーフン協会ノンポリ第一会員・イチキ游子でございます。
自粛自粛と草木もなびく、とかく不穏なニッポニア日本、皆さまいかがお過ごしでございましょうか?

さて、まりこふん会長との毎回高齢、いや恒例の古墳めぐり計画が昨年4月に無期限延期となってはや1年超え。
このままじゃ古墳に行くより先におのれが墓に逝くわ、と半ば自嘲気味に諦めていた先日のこと、突然会長から来た

「古墳に行きませんか?」

という、もはや懐かしすら覚える一言メール。
おおお待ってました!ついに黄金コンビ復活か(違)!

などと反射的にテンションが上がるもハタと思う。

(ちょっと待て、いいけどあの人どこへ行く気だ・・・?)

例によって行き先の明記がないミステリーアドベンチャーへの誘い。

『いま国内は動きづらいのでニュージーランドにいい古墳見つけました!』とか言い出したらどうしよう。

でもまあいっか、いっか、ニュージーランドでも。

と取り急ぎ「行きます」と即返事。

そして迎えた当日、行き先はなんと・・・

サイタマでした〜!!

第四十八回「哀愁古墳巡考」

第四十八回「哀愁古墳巡考」

折しも五月晴れの朝。東武東上線にゆられ「朝霞駅」に着到。
まりこふんが完璧に時間を下調べしたバスをいつも通り順調に逃し、徒歩で向かうは「柊塚古墳」。
畑が並ぶのどかな住宅街を歩くこと20数分。
珍しくさして迷うこともなく、柊塚古墳に到着。

大きな高齢者住宅のすぐ裏手にあったのは、駐車場も完備された素敵な広場、その名も「柊塚古墳歴史広場」
入り口には円筒埴輪と馬形埴輪がお出迎え。馬形埴輪かわええ!めっちゃご飯もらっとる!

第四十八回「哀愁古墳巡考」

第四十八回「哀愁古墳巡考」

第四十八回「哀愁古墳巡考」

入り口の案内図で古墳前方の突起部を見てふと

「こーゆうのなんていうんでしたっけ?・・・踊り出し?」

と古墳用語しったかぶりしてみたところ

「造り出しですっ!!」

とまりこふん会長からボーガン級の突っ込みを受ける。
しかもこれ前方後円墳だったので造り出しでもなかったという古墳白痴ぶりを本領発揮する我らがノンポリ(俺)。

第四十八回「哀愁古墳巡考」

さて、古墳めぐりお約束の割と高めの階段を登ったところに、さっそくキター!
クリアに美しい前方後円墳・柊塚古墳・・・

第四十八回「哀愁古墳巡考」

いい!もったいぶってない!キレイ!そしてわかりやすい!
古墳トーシローを自認するあたくしにも一目でその前方後円なフォルムと存在感が把握できる古墳・柊塚。
写真では伝えられないこの想い、君が好きだと叫びたいほどの素晴らしい墳ビュー。

とにかくこの広場、癒し空間力すごい。
天気が良かったのもあるが、古墳の全景が一番よくみられるところにいい具合にベンチがあり、すぐ目の前に点字付きの立体模型。人と古墳への優しい心遣いが心地よい。
そしてなんたって公衆トイレが家形埴輪だぜベイベェ!

第四十八回「哀愁古墳巡考」

残念ながら登頂は不可。裏側に墳頂への道はあるも通行止め。諦めきれない子供がひとりいた。

第四十八回「哀愁古墳巡考」

ホントに素敵なお散歩スポットでオススメすぎなので是非ともみなさまお運びを♬

第四十八回「哀愁古墳巡考」

さて、柊塚古墳を辞したわれわれ。次なる古墳「一夜塚古墳」へ。
名前かっこいいな一夜塚古墳。古墳の擬人化2.5次元舞台があったら黒髪のイケメンが演るやつね(阿呆)。
ところがこのイケメン一夜塚古墳、先ほどの柊塚古墳のすぐ近くにあるはずなのに地図の場所に見当たらない。あるのは小学校のみ。

あ、なんか前もあったなこういうの。小学校の中に古墳があっちゃうパティーン。中に入れば古墳に会えるのか?
しかしこのご時世、そうそう平日に不審な大人2名が侵入できるはずもなく。

第四十八回「哀愁古墳巡考」

第四十八回「哀愁古墳巡考」

とりあえず学校の柵から二人して敷地内を覗く。折しも授業中。これだけですでに十分不審者である。
しかし、それらしき物は見当たらない。すると、

「あ・・・これはまさかの・・・」

まりこふん会長の低い呟きに、見ると柵の中すぐ目の前になにやら石碑が立っている。

あ、これ、もしかして・・・

なんと、一夜塚古墳「跡」の石碑であった。
すでに古墳はなくなっていたのである。
古墳の擬人化2.5次元舞台があったら回想シーンにだけ出てくるやつ・・・(涙)

石碑の隣には

「この学校はご先祖さまのお墓の上に立っています。敬意を持って立派な日本人になるようお勉強しましょう」

的な内容の看板が立っており、読みながら呆然とするわれわれ。
しかしすぐ気を取り直し、柵の間からせめてもの記念にと石碑の写真を撮ろうと手を伸ばす悲しみ冒険隊。

第四十八回「哀愁古墳巡考」

第四十八回「哀愁古墳巡考」

そこへ

「なに撮ってんの?」

背後から男性の声が飛んできて思わず手を止める。ヤバい職質来た・・・ついに不審者認定か!危機of冒険隊・・・!!

恐る恐る振り返ると、そこには高級そうな車を降りてきたチョイ悪な風情のロマンスグレイのおじさまが笑みを浮かべて立っている。

「あ・・・古墳を・・・」

とまりこふんが答えると、チョイ悪ロマンス氏はニヤリと笑い

「え、入ればいーじゃん♬」

と言ってなんと目の前の校門を開けてくれたのである。

「・・・!」

「あっちの古墳は?見に行ったあー?」

と柊塚古墳の方面を親指でさされ、頷きながらただただお礼を言う2人。
そのまま校舎に消えていくチョイ悪ロマンス氏の後ろ姿を見送る。あの年齢と見知ら
ぬ女2人を校舎に入れられる権力。きっと校長先生か何かやんごとなき御人だろう。
ひたすら多謝。そしてなけなしの女子力ちょっぴり胸キュンなひとときでありました。

第四十八回「哀愁古墳巡考」

一夜塚古墳(跡)とチョイ悪校長に別れを告げてバスに乗り、本日最後の目的古墳「峡山(はけやま)古墳」へ。一夜塚古墳が現存しないのは残念だったが、スムーズに目的地を回れているなあと考えていたら、

「なんだかんだ、今回わりと迷わず順調ですね」と同じことを考えていたらしいまりこふん会長も言った。

「そうですね♬」とニコニコしてあたくし。すると会長が真顔で聞いた。

「イチキさん、これじゃ面白くないですか?」

「いやどーゆうこと?別にいつも迷子になりたくて古墳行くわけじゃないんで全っ然普通がいいです!!」

「そうだったんですか」

などと不毛なやり取りがアドベンチャーの神さまを召喚してしまったのか、終点で降りたバス停は、ここがどこなのか皆目見当がつかない僻地であった。

やはり、今回もただではすまなかった。不透明な道のりをマップを頼りにひたすら歩く。地図だと近そうなのに川を越えるための橋まで遠回りをせねばならずいっそ泳いで渡った方が速いのではないかとすら思えてくる。

第四十八回「哀愁古墳巡考」

やっぱりアドベンチャーの運命からは逃れられないらしい。

第四十八回「哀愁古墳巡考」

ゲッソリしながらも歩いて歩いて、謎のポップすぎる重機を通り過ぎ、急な坂道を登ってたどり着いたそれらしき場所はフッツーの静かでキレイな新興住宅地であった。まだ未入居の新築もある。

小さな公園があり、中央に大きなすべり台がそびえている。その下なんとこんもりとした土の小山が・・・!

「あ、あれですよ、マリさん!あれが峡山古墳ですよね!」

と小山に駆け寄る単細胞を尻目に、難しい顔をしてあたりを見回すまりこふん。

どうやらこの小山は古墳じゃないらしい。あたくし知っている。これまりこふん内蔵の古墳レーダーと地図が違うって言ってるやつだ。しばらく話しかけたらダメ(ムダ)なやつだ・・・。

まりこふんが古墳の所在を探し当てるのを待つ間、大人しく滑り台で遊んでいることにした。
すべり台の頂上から見る景色もなかなか壮観である。

第四十八回「哀愁古墳巡考」

しばらくすると下から、

「わかりました〜」

とあたくしを呼ぶ声が聞こえた。おお、ついに古墳を見つけたのですね!しかし、なんだか声に力がないような・・・
すべり台の上から下を見るとまりこふん会長が静かな目で公園の外を指さした。

「あすこです」

指の先にあるのは最初に見たまだ入居していない戸建ての新築物件であった。

えーっと、と言うことは・・・

「上に、家が建ってました・・・」

滑り台から降りたあたくしに力なく差し出された会長のスマホの画面には在りし日の峡山古墳の写真。隣接する家を見てもそこは間違いなくあの新築物件が建つ場所であった。

あ・・・家、建っちゃったのか・・・

絶望を通り越した会長は、公園のベンチに腰掛けるとガックリとうなだれた、それはまるで「あしたのジョー」の最終場面のように完全に燃え尽きた光景であった。

第四十八回「哀愁古墳巡考」

・・・誰が悪いのではない、家を建てた人とて、まさかその下に豪族の墓があったと知っていたらいろんな意味で躊躇したに違いない・・・。
それでも、やり場のない哀しみに立ちすくむまりこふんに、かける言葉は見つからなかった。

それにしてもだ、1日の古墳めぐりで2回も古墳の「跡」と遭遇することになろうとは、さすがのノンポリも驚きであった。世の中にはまだまだ人知れず消えていった古墳があるのだろうなと思うと世間の墓なさ、いや、はかなさを禁じ得なかったし、こんなに漫画のように落胆した人の背中見るのはなかなかない経験であった。
この哀しみが古墳シンガーまりこふんの作品の大いなる糧になると良いなあ、などとこっそり願うノンポリ。

でもなんだかんだと良いアドベンチャー日和だったなぁ、やっぱり晴れた日に自然を感じてお散歩する古墳めぐりは良いものだなぁと、北朝霞駅前でそばをすすりながら再認識した小旅行でございました。