第十回「逆走迷走散歩考」
投稿日:2014年7月18日
最近気がついたことがある。
例えば知り合いのつきあいで、さして興味もないミュージシャンのコンサートに半ば強制的に連れていかれ、そのライブの躍動感にうっかり感動してしまって以来、ついつい彼らが出演する歌番組やら表紙を飾る雑誌が気になるようになってしまったとか…。
あたくしにとって、古墳はまさにそれなのだ。
もともと知らねえし、これ以上深く知りたいとも思わんのだが、全国各地にいっぱいあるよと言われると、出先の空き時間につい「この辺に古墳はねえかな」と検索をかけている。言い訳はすまい。人間、諦めが肝要なんである。
というわけで先日、実家のある横浜の金沢八景へ帰省の際、特に急ぐ旅でもなかったため、ふと気まぐれに「横浜市 金沢区 古墳」で調べてみたわけである。
あれれ、ない…。我が故郷・金沢区には古墳はないらしい。もう少しエリアを広げて「横浜市内」で検索。
すると、ちょうど通り道の東急東横線沿線に一ヶ所発見。
「綱島古墳」とな。
綱島と言えば乗り換えの横浜駅にもそう遠くない。しかも駅から徒歩数分という立地も、天才型方向音痴であるあたくしに優しい。この炎天下にアドベンチャーで野たれ死にする危険性もなさそうだ。
ふらふらと無事に綱島駅で下車。
しかし改札を出た途端、あたくしに第一にして最大のトラップが待ち受けていた。
うわあ〜お祭りだあ〜!
…そう、世間は夏祭り。かき氷に生ビールにイカ焼きにと、駅前ところせましと屋台がひしめき、老若男女入り乱れてまあ盛り上がっていたわけである。
…やっゔぁい。これやっゔぁい…
さっそく生ビールの看板に吸い寄せられている自分を慌てて制する。確かに人生ノンポリのあたくしだ。だがしかし仮にも自分から古墳探しに来ておいて、ここでイカとビールに埋没してしまったらさすがに自分が残念すぎる…。
いまはダメだ!あとにしろ!ビールならあとで買ってやるから!!
自分に言い聞かせ、きつく目を閉じてくるりと踵を返し、屋台を背にして駅の反対側にダッシュ。
ふう、危ないところであった…。
落ち着いたところで携帯のmap機能で場所を確認していざ綱島古墳へ。
古墳は「綱島公園」という公園の中にあるということでしばらく歩く。
歩き出し順調。地図はあたくしが目的地へ正しく向かっていることを示している。
綱島駅周辺は想像していた以上に(とても良い意味で)田舎で、広い道の両脇に畑が広がり、歴史的古民家や、眺める美しい山々もまるで「まんが日本昔ばなし」のようで、古墳見物ということでなくとも、休日の散歩にもってこいのヒーリングコースである。
(ああ、のどかだなあ。来てよかったなあ…)
…ところがである。ニコニコしながら再びmapに目を落とした瞬間、今まで追えていたはずの目的地をいきなり見失ったのである。
(うあ、こ、これは…)
嗚呼…あたくしが古墳を探そうとする時、それまで順調だったmapが突然読めなくなるこのパターン…これは、いつもの。
(いかん…失敗フラグ立った。)
これが起こるとこのまま迷子決定という自らのジンクス。そんな確信に怯えながら歩く冒険者。しかし、ほどなくして目の前に「綱島公園」らしき公園が現れた。
(あ、あった!)
安堵のため息。やったじゃん、着いたじゃん自分。やっぱり、人生に失敗フラグなんて存在しないんだ、運命は自分の手で切り拓くんだ!
喜び勇んで急な坂道を駆け上がり公園の入り口にたどり着いたところで、あることに気がついた。
「綱島台公園」
あれ…?なんだか違和感。
どうも、一文字、多い気が…?あ!あ!嗚呼あああ…!
…やはり残念ながら、失敗フラグは存在した。綱島には酷似した名前の2つの公園があり、あたくし目的地の「綱島公園」を間違って「綱島台公園」と検索していたのである。
「これがホントの『台なし』でございます。」
心の高座で真打ちのサゲが決まったところで「綱島台公園」に別れを告げて心機一転「綱島公園」へ。
幸い、そう離れていなかった真の目的地「綱島公園」はすぐに見つかった。
しかし、広い。先ほど誤爆した「綱島台公園」は団地の中の小さな公園といった感じだったが、こちらは広々とした敷地内に、公民プールや広場や子供達のためのログハウスがあり、家族連れやサークルの集団などで賑わっているかなり大きなものであった。
情報によると分かり易くてすぐ見つかるとあった綱島古墳も、あたくしの手にかかるとなぜか難攻不落になるらしくなかなか見つからない。止むを得ずダメ元でネット検索に頼り「綱島古墳 位置」と調べてみると、ありがたいことに大変わかりやすい一般の方からの書き込みが見つかった。入り口入ってすぐ左の森の中、と…。
さっそく入り口に立ち戻り、書き込みの通りに進む。すると、
(とう…ちゃく…。)
セーラー服と機関銃のテーマがゆるやかなアレンジで脳内を流れる中、その古墳はあたくしの目の前に、とつぜん、ではなく、ふんわりと現れた。
涼しい夏の風に囃される木立におおわれた、優しい、どこまでも優しい円墳であった。
嗚呼、ああ、いい、ああ、今回もキタ。この「逢えたね」感…
古墳自体に登ることは出来ないが、すぐ周りを歩けるようにぐるりと道に囲まれている。途中、謎の老人像と円筒埴輪のツーショットを横目に、二周ほど回る。
(1時間ほどのちょっぴり長い道のりでしたが、貴方に逢えて光栄です。)
心底そう思った。眼下のプールやログハウスで楽しむ大人や子供を静かに見守るような穏やかな、にこやかな誰かのお墓を、小さく口をあけたままいつまでもいつまでも見ていた、そんな静かな夏の午後でございました。
余談だが「駅から5分」だったはずの目的地に、迷ったとはいえ1時間以上もかかったのは、そもそも最初に屋台の誘惑を振り切って走り出したのが真逆の方向だったからだと気づいたのは、駅に戻って屋台を冷やかしながら缶ビールを飲んでいた時だった。でも楽しかったからなんでもいいや。方向音痴にしか出来ない散歩もあるよネ、あ、負けおしみじゃなくてネ。
でも個人的に、もしあなたがこのステキに優しい「綱島古墳」に行かれるのなら、ぜひあたくしの通った「癒しの逆走・迷い道1時間お散歩コース」が断然オススメであります。
…だから負けおしみじゃねえっつってんじゃん。
- 第四十八回「哀愁古墳巡考」
- 第四十七回「電波雑談古墳考」
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- 第四十一回「高級住宅街古墳冒険考・前篇」
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- 第三回「古墳さそり考」
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