第七回「百花繚乱天文台考」
投稿日:2014年4月15日
以前会長に、「古墳アドベンチャーをするにはまず何をするべきか」と問うたことがある。
あたくしのそのきまぐれな質問に対して会長はこう答へた。
「簡単です。『東京 古墳』 で検索をして、場所や名前が気に入ったところへゆけばよいのですよ」
うむ、至ってシンプルである。なるほどですネー。
「簡単です、今から私と一緒に来ればよいのですよ」と言われなかったことにその時はどこかホッと胸をなでおろしつつ、後日その通り熱湯を健脚にかけてみた。否、ネットで検索をかけてみた。
ノンポリ会員、まさかの「ひとり古墳アドベンチャープロジェクト」である。
会長のお供でこれまで数々敢行しては三途の川を何度も渡りかけてきた古墳アドベンチャー。その未知すぎる魔界への旅をあれほど畏怖しトラウマ視していたあたくし。そんなあたくしがこの度はなぜそんな勇気ある行動を起こしたのか。
…花見がしたかったのである。
だってだって4月よ?花見シーズン真っ盛りよ?春に会いたいぢゃん。出来れば見慣れた場所でなくて自分の脚で到達した見知らぬ土地で満開の桜に出会いたいぢゃん。あ、じゃあせっかくだからついでに古墳とか探してみたらイー感じぢゃん。
…いささか軽薄のきらいはあるが、やる気はあります。大丈夫、人類史上の大発見のキッカケなんてきっとこの程度のノリに違いないのです。
ひとまず、自宅から自転車で行ける範囲内で、と探してみる。
「東京 古墳」あ、いっぱいでてきた。更に絞り込む。あ、三鷹だ。うむ、三鷹ならチャリでなんとか。
も少しよく調べる。ヘエ、三鷹市のこの古墳はなんか施設の中にあるらしい。その名も
「天文台構内古墳」
て、天文台!おおう!天文台構内古墳ですって!お空と古墳、銀河と大地のコラボレーション!なんていかしたロマネスク!ここしかない。ここへ行こう…!
数日後、快晴の日曜日。ソロ活動へのコーフンのあまり握り締めすぎたおそろしく不細工なおにぎりをリュックに詰め、ママチャリ・兵長号(仮名)に乗り、一路三鷹へ。
携帯の地図機能を頼りに走ることわずか10分。異変に気づく。
(アレ、これ、おうちに帰る道だヨ?)
さすが天賦の方向音痴。最初のわかれ道を逆走してさっそく帰宅の途につこうとしていた。最近めざましい発達を遂げているこの地図機能だが、実はあたくし、これがほとんど読めないのである。
「じゃーなんで使ったのヨ」と聞かれれば、「調子に乗ってました」としか答えようがない。その後は地図に頼らず他人に頼ることを決意し、心の他力本願寺にお参りして軌道修正。
桜舞い散る晴れた空を眺めながらの疾走。ああ、最高だ。なんかまた道間違えてる気がするけど、このまま古墳にたどり着く気がしないけど、会長だって辿り着けなかった古墳あるってゆってたし、それならそれで花見だ花見。
行き先にも人生にもすぐに目的を見失う悪癖との道行二人…。
それにしても、どうやったらこんなに器用に道に迷えるのかと自分をむしろリスペクトしはじめた、出発から約2時間30分後…。
(あ、ついた…。)
突然すぎた目的地到着。しかもそろそろ本気であきらめ始め、広がる菜の花畑を見て(菜の花って 赤ちゃんのヨダレの匂いが しますな)などと散文詩を作りながら走っていた矢先、そのつつましい看板が唐突に私の目に飛び込んできたのである。
「自然科学研究機構 国立天文台」
うっわあホントについたあ!
すぐさま全力でママチャリ・兵長号(仮名)を漕いで施設の敷地内へ乗り込む。
わ、広っ、人少なっ、桜満開っ、自然ぱねえっ…!
とりあえず、兵長号を駐輪場に停め、正門脇の見学者受付で名前と居住区、時間を記入しする。峰岸徹の従兄弟のようなコワモテの警備員さんが、予想通り予想を裏切るオットリした東北なまりで敷地内の説明を親切にしてくださる。
天文台というだけあってここにはあちこちに星の研究に使われた歴史的施設があり、古墳を含めて全て無料でまわれるとのこと。
地図つきのパンフレットと一緒に「見学者シール」というおしゃれなステッカーを渡されて「衣服に貼ってください」と言われ、反射的にジーパンに貼りつけてから気づく。
(…お前はライブハウスの人か!)
慌てて上着の右胸にシールを貼り直し、いざ出発。
キョロキョロ歩いていると、小さな白い木造の小屋が現れた。
見学コース1番目の施設「第一赤道儀室」
タイヨーをカンソクするボーエンキョーが収まってるタテモノらしい。中を覗くと小さなドーム状の屋根いっぱいまで鉄の機械が収まっている。外観と同じ木造の内部は秘密基地の雰囲気があってわくわくする。
(はあ、昔の研究者たちはこれで星を見ていたのかあ、浪漫的、浪漫的…!)
とホクホクしながら感慨深く外に出たところで、大事なことを思い出した。
あ、あたくし古墳に会いに来たんだった。
慌てて地図を広げると、どうもこのすぐそばにあるっぽい。しかし、それらしき方に歩き出すもすぐ行き止まりになってしまった。
そう、この広い国立天文台の中では、見学者が歩き回れるコースが恐ろしくストイックに決められており、道が続いている所でもやんわりと「関係者以外通行禁止」の看板がそこかしこに下がっているのである。
あやや、これ以上進めないと古墳に会えないではないか…
一瞬絶望しかけ、ふと首を横に曲げた時…
立ち入り禁止の一歩手前に「天文台構内古墳」の看板を発見!!
更に視線を奥に移すと、確かにあった!古墳!あの独特の湾曲したでっかい土の山!(←会長ごめん)
思わず駆け寄る。残念ながら一般公開はしていないとのことで周りは柵で囲まれてそばには寄れないのであるが、遠くからでもハッキリ確認できるフォルムとオーラにしばし立ちすくむ。
わーあ…!
希望通り、桜吹雪の中で古墳を見ている自分にナルシシズムがとまらないアフタヌーン。
…お母さん、ついに、ついに来たよ!ゴメン、何の話かは後で説明するから!
それにしても、原生する木々に邪魔されて全貌が少し見えづらい。これ、上円下方墳って言ってたっけか、上が丸で下が四角…。
その時、ハタと思い出した。いましがた見学してきた隣の第一赤道儀室の周りにベランダがあったハズだ。あすこからならもう少しよく見えるかも知らん…!
急いで戻って階段を駆け上がりベランダへ。「ハチに注意」の看板に一瞬ビクッとひるみながら古墳のある方まで回り込むと、案の定更によく見えた。
…なんだかねえ、エラく感動したわけですよ。
見つけたヨー、でっかいネー、アナタこの地を治める豪族さまのお墓なんだってネー。
いつも協会の皆に連れてってもらって見てるものを独り占めしたようなしやわせな満足感。桜の花びらたちが親の仇のように古墳に降りそそぐのを見ながら、いつまでもいつまでも、ノンポリ刑事はそこに立ち尽くしておりました…。
その後、広い敷地内を回って歴史と銀河の匂い漂う全ての天体施設を満喫し、際奥の広場のおそろしくフォトジェニックな満開の桜の木でお花見も満喫。
いいね、星も古墳も桜もいいね、みんなちがってみんなナイス…
東京の隠れた穴場を見つけた、晴れすぎた春の日のひとり古墳アドベンチャーでございました。ちょっと遠いけど、まぢオススメですココ。
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