第一会員イチキ游子の古墳に混乱コラム

第十九回「空中庭園古墳考」

投稿日:2015年4月19日

春になると無性に古墳が見たくなる症状を「コフン症」と呼ぶ。
って、さっき決めたヨ、アタイ。

まあなんでもいいんだが、前回訪れた川崎市の「馬絹古墳」で川崎・横浜方面の意外な穴場に味をしめたあたくしことノンポリ会員、熱が冷めないうちに再び春の古墳散歩に繰り出すことにしたのである。

今回のターゲッツは、溝の口駅からゆく「蟹ヶ谷古墳群」。前回の宮崎台から、期せずして田園都市線古墳の旅・第2弾とあいなった。

第十九回「空中庭園古墳考」

この蟹ヶ谷古墳群、「神庭緑地」という、なんて素敵にホーリネスなネーミングの公園の中にあり、1基の前方後円墳と2基の円墳の計3基からなるという。

さっそく田園都市線・溝の口駅で下車。「蟹ヶ谷行きのバスで終点までそこから徒歩約20分」という情報に従い、バスを降りてホテホテ歩く。

第十九回「空中庭園古墳考」

うららかな川崎の午後。本当にいい天気だ。そう言えば去年の今頃、チャリンコ漕いでひとりで三鷹の天文台古墳に行ったなァ。あたくしもだいぶアドベンチャー慣れして来たんじゃね?協会員らしくなって来たんじゃね?ネエ、来たんじゃね?・・・あれ・・・

第十九回「空中庭園古墳考」

・・・迷ってね?

冷静に地図を見ればどう頑張っても迷いそうもない道なりの行程で、回想に耽っているうちにいつしかあらぬ方向に歩いていたようであった。さすがあたくし、自分で自分を裏切らない。
慌てて方向を変えてなんとか軌道に乗ろうと模索する。
ようやく目印のコンビニにたどり着くも、そこから先が分からない。頭の中で仏壇の鐘がなる音を聞きながらぼんやり歩いていると、突然背後から、

「バアーカ!バアーカ!!」

という少年の罵声が飛んできた。吃驚して振り返ろうとすると、今度ははるか頭上から少女たちの声で
「自分が悪いんじゃーん!」
という明らかに少年に向けた叫びが降ってきた。
どうやらあたくし、このタイミングで子供の喧嘩に挟まれたらしい。道に迷った上にこのいらんオプション。全くもってついてない。

第十九回「空中庭園古墳考」

更に「バアーカ!」を繰り返すあきらかに劣勢の少年と優勢の頭上の少女たちの言い合いは続く。

「バカって言ったらカバと結婚するんだよ!」
「ちょっとぉ、ダジャレやめてくれません?おれダジャレ嫌いなんですけどぉ!」

…おとなげない。子供だから仕方ないけど、おとなげない。
つうか、ずいぶん高い所から声が聞こえるが、さっきから女の子たちはどこから叫んでるんだ?
ふと気になって初めて声のするはるか頭上を見上げると、そこにはこんもりとした山のような丘がそびえ立っていた。木の階段が頂上まで続き、かなり高い。
階段の入口には看板があった。

第十九回「空中庭園古墳考」
「神庭緑地案内図」

あれ、神庭緑地・・・?このホーリネスなネーミングはもしや・・・。
見覚えのある名称に更に案内図をよく見ると、数個の「円墳」の表示がある・・・

第十九回「空中庭園古墳考」

キター!!!

なんとあたくし子供の喧嘩に翻弄されて歩くうちに、いつしか目的地の麓にたどり着いていたのである。

サンキューです!ビバ!おとなげない子供たち!!

女々しい悪態が止まらない少年を尻目に、一目散に階段を駆け上がる。

第十九回「空中庭園古墳考」

階段途中で口の減らない女子2人を追い抜き、細い木の階段をひたすら登り切ったところで、突然視界がひらけた。

わ、びっくりした、天国来たかと思った・・・

広場や緑地と呼ぶにはどこか浮世離れした風が流れる優しい異空間。どちらかと言えば「空中庭園」という呼び方がしっくりくる緑の世界・・・

第十九回「空中庭園古墳考」

そんな緑の世界で、約束通り3つの古墳がまるで日向ぼっこをしているかのように佇んでいた。

第十九回「空中庭園古墳考」

「調査作業中」の立て札以外は特に解説板もなく、ごくごく自然に、犬の散歩をする奥さんたちと談笑するかのように、可愛らしい丸みをおびた円墳と、静かに横たわる前方後円墳。

第十九回「空中庭園古墳考」

時々、穏やかな老婦人が連れた巨大な老犬・ナナちゃんにからまれながら、ひとりのんびりと古墳浴を楽しむ蟹ヶ谷古墳群の午後。

第十九回「空中庭園古墳考」

何もかもが、ゆるやかで尊い・・・やっぱり、来てよかった・・・!

堪能しきって下へ降りると、麓では、少女たちがいじけきった少年にごめんねと謝っていた。

「え?なにそれ?なにに対するごめんね?逃げたこと?オレだけ怒られたこと?」
(・・・)

空はどこまでもひろく、風はどこまでもやわらかく、そして彼の器はどこまでも小さかった・・・。

第十九回「空中庭園古墳考」