第六回「ソロ活動回想考」
投稿日:2014年3月24日
古墳にコーフン協会、進撃のノンポリ兵士長・イチキであります。
常日頃、会長たちの古墳めぐりに「ピクニックだ」とはしゃいでホテホテついて歩き、そんなおのれの古墳に対する主体性のなさは重々ジカクしている第一会員の曖昧ミー。
しかしそんなあたくしも、以前に一度だけひとりで古墳を見に行ったことがある。
1年ほど前の夏。きまぐれに世田谷の等々力渓谷を散歩中、近所に大きな古墳があると知り、立ち寄ってみることにしたのである。
少々苦労してやっとたどり着いたその古墳「野毛大塚古墳」は、小さな公園の中にひときわ大きな存在感を放ちそびえていた。
周囲をなんでもない団地に囲まれ、平日の夕方だったこともあり、古墳見学らしき人も通行人もおらず、綺麗に整備された巨大な古墳の周りでは唯一、3人の小学生くらいの少年たちが奇声を上げながら走り回っていた。ひとりの少年をあとの2人が追いかけ回している…
(餓鬼が鬼ごっこか…シャレにもならねえや…)
いったい誰のマネだという心のVシネボイスで呟き、シニカルな笑みを浮かべたままベンチの座って古墳を眺めるあたくし。
ひとりで、自主的に、古墳を見に来た。それだけで安易に胸に湧き上がる、えもいわれぬ自己満足感…。
暮れかけた夕空を背景に、巨大だが威圧感のない穏やかな野毛大塚古墳。ああ、ふわんと癒される。いにしえよりそこにあり続ける情け深い遺跡…。
古墳の前でセキをする時は可愛く「コフン」とすることにいたしましょう、品良く「コフン」と…
しかし、と、目の前ではしゃぎ続ける少年たちを見やる。
この子供らにとっては、この壮大な歴史をさりげなく抱いたまま佇む古墳も、公園の中の巨大なオブジェくらいの意味しかなさないのだろうな。
(まったく遺憾なことでありますヨ。)
まぐれの古墳ソロ活動に気を良くした単細胞の思考がますます調子に乗る。
…いいか少年たちよ。古墳ってのは昔のエラい人のお墓なんだぜ。うちの会長なんか古墳に登るときちゃんと拝んでから登るんだぜ。お前らその勢いで古墳に駆け上がったりしたらもれなく全員に、まりこふんのスパーリングが飛ぶぜ…。
(ちょっと男子、もっと古墳を大事にして!)
心のおせっかい女子ボイス呟いてみた瞬間、はたと気づいた。
今、ここで一番「古墳愛」があるのはこのあたくしではないか…!
日頃協会の中では自分はノンポリだ古墳白痴だと踏み込むことをなかば諦めていたが、そんなあたくしにもこのやうに古墳を憂い古墳を守りたいという気持があったのだ。そうなのだ!
なんだか妙に嬉しくなった。やればできんじゃん、やればできんじゃんノンポリ!
おい、少年たち、分かっているのかあたくしは古墳にコーフン協会の第一会員としてキミたちに…
その時である。
追いかけっこの先頭を走っていた一番小柄な少年が突然止まった。次にそのままくるりと振り返るなり、背後の古墳をかばうように両手を大きく広げると、仲間を見据えてこう言い放ったのである。
「この世界は…オレが守るッッ!!」
突然あたりにとどろいたヒロイズム全開の絶叫に…感動…する前に思わず彼の顔を二度見した。
…どうしたよ少年…
なんかかっこいいけど、感動するには、あまりに全てが唐突すぎた。
しかし、先ほどまでキャーキャー騒いで逃げ回っていた地蔵似の阿呆な子供の顔が何処かへ消えた今、彼の表情は勇者そのものであった。彼は更に叫んだ。
「お前たちに邪魔はさせん!!」
あくまで推測だが、どうやら、これは彼にとってただの追いかけっこでなかった。世界を守るためにあえて悪の組織(たぶん友達)のオトリを演じていた(つもり)らしかった。
じわじわと、感動が、やってきた。
実際、さっきから20分くらい見てたけど一度もそんな裏設定出てこなかったじゃねえかとか、あとの2人だいぶポカンとしてるけど打ち合わせ大丈夫かとか、そんなことはどうでもいいことであった。
…負けた。なんとなく素直にそう思った。
よく分からないが、いま少年は、この巨大な古墳のある公園ごと、彼の小さな世界を体を張って守っているのである。
(それに比べて自分はどうだろう。)
突然、あたくしに備わった即時反省機能が発動した。
協会の大事な取材や研究ツアーにピクニック気分で同行しては「いい一日ですねエ」と散歩中の仔犬のようにヘラヘラと古墳になごむだけのあたくし。
「古墳のできるまで」を会長に何回説明されてもいまだに仕組みがよく理解できないあたくし…
(…このままでいいのか、古墳にコーフン協会・第一会員としてこのままで…)
再び悩みかけたその時、あたくしに備わった自己肯定機能が正常に発動した。
(…別によくねえ?)
愛するもよし、ぼんやり眺めるもよし、戦って守るもまたよし…。何度も言うが、古墳にはヒトそれぞれ楽しみ方があるのである。
結局、そこに戻ってくるネ…。
一周まわって無事元のノンポリに戻ったひどくリラックスした頭でもういちど、悠然とそびえる古墳と、友人の英雄願望に戸惑い続ける2人の少年に目を細めた、なにもない夏の日の夕暮れ時でありました…。
from.Yuko Ichiki
- 第四十八回「哀愁古墳巡考」
- 第四十七回「電波雑談古墳考」
- 第四十六回「在宅妄想古墳巡考」
- 第四十五回「愉快痛快総会考」
- 第四十四回「荒天気鳩観光考」
- 第四十三回「紀州浪漫古墳考」
- 第四十二回「高級住宅街古墳冒険考・後篇」
- 第四十一回「高級住宅街古墳冒険考・前篇」
- 第四十回「黄金週間的非古墳散歩考」
- 第三十九回「博多古墳顔塡雑貨考」
- 第三十八回「年末生誕旅行回想考」
- 第三十七回「昼下古墳冒険未遂考」
- 第三十六回「俗物女優埴輪声優考」
- 第三十五回「無思想流埴輪之気持考」
- 第三十四回「熱中古墳動物園考」
- 第三十三回「地獄極楽伊豆巡考(後篇)~混乱修善寺炎上篇」
- 第三十二回「地獄極楽伊豆巡考(前篇)~沼津風神呪歌事件〜」
- 第三十一回「春爛漫近場古墳巡考」
- 第三十回「山有山梨古墳冒険考」(後篇)
- 第二十九回「山有山梨古墳冒険考」(前篇)
- 第二十八回「新年早々逆古墳空目考」
- 第二十七回「年忘凱旋歌謡祭考」
- 第二十六回「疲労回復擬似古墳巡考」
- 第二十五回「我古墳妄想計画考」
- 第二十四回「新刊奈良之古墳考」
- 第二十三回「私認定検定考」
- 第二十二回「絶景天敵古墳撮影旅考」
- 第二十一回「塚廻空回古墳歌謡考」
- 第二十回「擬人御絵描古墳考」
- 第十九回「空中庭園古墳考」
- 第十八回「春咲小紅古墳考」
- 第十七回「絢爛衣装刊行記念考」
- 第十六回「遅馳新年御挨拶考」
- 第十五回「年末回想手作業考」
- 第十四回「堂々発売古墳散歩考」
- 第十三回「雨天決行歌謡祭考」
- 第十二回「最北端古墳考」
- 第十一回「古墳看板考」
- 第十回「逆走迷走散歩考」
- 第九回「鯨古墳考」
- 第八回「八重洲書店署名会考」
- 第七回「百花繚乱天文台考」
- 第六回「ソロ活動回想考」
- 第五回「世界のYOZAWA考」
- 【号外】「疑問質問キトラ考」
- 第四回「伊豆ゴクラク古墳浴考」
- 第三回「古墳さそり考」
- 第二回「冒険者考」
- 第一回「アイがあればダイジョブ考」