第一会員イチキ游子の古墳に混乱コラム

第三回「古墳さそり考」

投稿日:2013年12月18日

古墳にコーフン協会のノンポリ第一会員のあたくしにとって、会長はじめ他の協会員の含蓄溢れる古墳愛は常にリスペクトの対象であるのだが、それとは別にひとり気になる会員がいる。
タチハナ会員である。

タチハナ会員は常に物静かな、華奢でそそとした美人である。古墳には一言も二言もあるマニアであることは聞き及んでおり、手作りで可愛い「古墳マグネット」なども作成している手練れなことも知っているのだが、ことあるごとに協会の遠足で同行することがあっても、なかなか落ち着いて話をする機会がない。

第三回「古墳さそり考」

なぜなら、彼女は宇宙規模に寡黙だからである。

喋るか喋らないかといえば、あたくしも他人のことを言えた義理ではない人見知りなのだが 、タチハナ会員のそれはあたくし程度の俗世の人見知りなど超越した物静かさで、もはや個人的には神の目線に匹敵する。

そんなタチハナ会員と今年の夏、協会の取材の某ワイドショー番組のロケで同行する機会があった。(左:タチハナ会員 右:イチキ游子)

第三回「古墳さそり考」

平日ということもあり他の会員の都合がなかなかつかず、待ち合わせの駅に集ったのは、まりこふん会長、あたくし、そして件のタチハナ会員であった。

まずは若いイケメンレポーターとの出会いの場面の撮影。

炎天下の駅前で、汗だくになって走り寄って来たレポーターとご挨拶。これから向かおうとする、あたくしも大好きな「さきたま古墳群」へ向かうにあたり意気込みを聞かれる。

第三回「古墳さそり考」

「もー、今からコーフンしてますよォ!」と、もの慣れたハイテンションの まりこふん会長の次に、「コーフンしてますか?」と問われ

「え、あ、はい、まあそーですね」

と、お前やる気あるのかという曖昧なニッポンのあたくし。

そして最後に、同じ質問はあたくしの隣に立っていたタチハナ会員に向かった。

「コーフンしてますか?」

その瞬間、それまでアルプスの少女ハイジのヤギ・ユキちゃんのごとき穏やかさを湛えていたタチハナ会員の瞳が、突如明らかに今までのオーラとは違う、サーチライトの光力を放った。

彼女はレポーター青年と背後のスタッフチームを見据えると、

「…しますよねェ、コーフン…?ドキドキ…しますよねえ?」

と、低い声でまさかの逆質問をするなりニヤリと笑ったのである。

第三回「古墳さそり考」

「・・・」

これにはその場の全員が凍りついた。

「この人何者だ・・・」という空気が、埼玉の快晴の空をひとときドドメ色に塗り替え、天上には雷鳴轟き龍が躍った。

古墳にコーフン協会、異端児誕生の瞬間であった。

その後の古墳巡りの間も、タチハナ会員の、古墳愛をひとっ飛びした物静かにハイパーな言動はたびたびクルーを混沌に陥れ、あたくしと会長はそのたびに筆舌に尽くし難い屈折した感動に悶絶した。

…古墳愛ゆえ。ただそれだけなのだ。古墳への想いを聞かれ、背中に龍を背負って不敵な笑みを浮かべるタチハナ会員も、フエルトで可愛い古墳マグネットを作るタチハナ会員も、稲荷山古墳の頂上でびっくりするほど遠い目をするタチハナ会員も、全て古墳愛あふるるタチハナ会員なのだ。

第三回「古墳さそり考」

…松島ナミだ、と思った。
この人は狂おしく古墳を愛するロケンローラー・女囚、否、「古墳さそり」なのだ。

後日、都内の某古墳祭 りで再会した彼女は、あの時のことなど忘れたかのように、相変わらず可愛らしい風貌に寡黙にニコニコと穏やかな笑顔を浮かべていた。

この笑顔に油断してはならない。

あたくし、きっといつかタチハナ会員の真の姿を暴いて見せよう!

暴き出し、その勢いで弟子入りするのだ!

第三回「古墳さそり考」

あたくしも、いつか取材で、「古墳にコーフンしてますか?」とたずねられたら、背中に龍を躍らせてニヤリと笑って答えたいのだ。

「…しますよねェ、コーフン…?ドキドキ…しますよねえ…?」

第三回「古墳さそり考」

from.Yuko Ichik