第三十七回「昼下古墳冒険未遂考」
投稿日:2016年11月3日
まあ、たまにはこんなこともある。
天気がいいので、久々に古墳巡りをしようと思い立つ。
あたくしこと古墳白痴のノンポリ会員にそんなことを思わせるのだから、秋・・・恐ろしい子・・・!
夕方に中野方面に用事があったので、中央線で調べてみたところこんな情報を発見した。
「中野区立上高田図書館の東側一帯には、遠藤山古墳群が存在。」
おお!中野!最寄り駅は新井薬師とな!頑張れば徒歩圏内ではありませんか!
というわけで珍しく早仕度して出発。
自宅から中野駅まで歩き、さらにサンロードから聖地中野ブロードウェイを通って早稲田通りを出て新井薬師の駅へ向かう。ブロードウェイ通過中にうっかり2階にある行きつけのホビーショップへ向かいそうになる足を叱咤。時間はあるがあたくしが寄り道をし始めると恐ろしい確率で目的地へたどり着かないことは自分が一番よく知っている。
新井薬師の前を通りかかると、日曜日ということもありのどかな賑わいを見せている。ああ、いい天気だ。
ああ、最近禊いでねえからな、たまにはお参りでもしていくか。
ちょっぴり反省した大沢逸美のようなシニカルな笑みを浮かべ、新井薬師の境内へ。神社のエキスパートであるイラストレーターの友人・ヨザワマイ直伝のお手水をキメて本殿へ。
最近ロクに善いコトもしていない己の業を落とすべく、本日はお賽銭も少々奮発してみるか、と張り切って財布にあるだけの小銭を取り出してみた。が・・・
・・・ななえん・・・?
おい7円てなんだよ!どーゆうことだよ7円て!
何をどう器用にまかなったらこの残高かと記憶をたどりつつ、国民平均賽銭額を大きく下回った真の小銭に慌てる小心者。
しかし、どう頑張っても今はこれがあたくしの精一杯らしい。多少神仏混同だが7ってのはきっとラッキーナンバーだと自分に言い聞かせ、賽銭箱にありったけの7円を投入し、約19倍くらい高望みの願いを唱える不心得者。
目の神様新井薬師さま、とりあえず、どうかこれ以上、老眼が、進みませんように・・・
お寺を出て商店街をぶらぶらしながら新井薬師駅に到着。
情報によれば、駅から5分ほどの上高田図書館に例の「遠藤山古墳群」へのヒントがあるらしい。
冒険者らしくスマホのマップを開いてみるも、例によって東西南北からわからない方向音痴。画面の天地が解らぬままいつも通りマップ片手に駅前の交番へ。
親切に教えていただいた図書館への道はありがたいことにほぼ一本道に近く、これなら迷わず着けそうだ。
歩き出してすぐ、ある店の前を通りかかった。
ぎふ屋・・・?
外には旧式のパチンコのようなゲーム台やガチャガチャ、店内のカウンターには煙草が売っているのが見える。
なに屋さんだらう?となんとなく覗いてみたところ・・・
おお!なんとスペイシー!!
店内には所狭しと駄菓子や玩具が並び、シュールとも言えるほどのノスタルジアな空気はもうちょっとした異空間である。
すごい、ここすごい。思わず店の真ん中で立ちすくむ。
大好物の「うま◯棒」のレア物が大量に並んだ一角でまさに目がハートになったのが目の薬師さまのおかげか知らんが、とりあえず手に取ったカゴにう◯い棒を大人買い。
レジに持って行ったついでに、お店のご主人に、このあまりにフォトジェニックな店内の撮影許可を伺ったところ快諾。いつからあるのか聞いてみたところ、
「創業は昭和24年です。父の代からやってたのを私が引き継ぎまして」
と、誇示するでもなく謙遜するでもないひっじょーにいー感じの淡々とした穏やかな回答。
後日検索かけてみたところこの「ぎふ屋」ちょっとした有名店ではあるっぽかったが、ご主人のこのニュートラルさがなんとも心地よい。
ありがとうございます。うまい棒11本お願いします。素晴らしい空間です。映画のワンシーンのようなグッとくるビジュアル系駄菓子屋さん、また遊びに来たいです。
新井薬師駅近くの駄菓子屋「ぎふ屋」。時空を超えたレトロに浸りたい貴方、ここ超絶おすすめであります!
さてさて、ぎふ屋という宇宙から下界に戻り、本日の最終目的地の「上高田図書館」へ。
駄菓子天国に没頭しすぎて危うく古墳捜しと交番で聞いた道順を忘れかけたところに救世主の看板。
そこから歩ってきっかり50メートル。ああ、ここだここだ!
やっとたどり着いたことを薬師サマに感謝しつつ、上高田図書館の辺りを見回しハタと気づく。そもそも
「中野区立上高田図書館の東側一帯には、遠藤山古墳群が存在。」
という情報を斜め読みしかしておらず、この図書館に来れば古墳に会えるものだと信じていたノンポリ。
しかし、図書館に着いたはいいが、建物周辺を見回しても敷地らしき右側からはは立ち入り禁止、左側には少年たちがカードゲーム奪還に勤しむ隣の公園くらい。あとノンポリなのでまず「東側」がわからない。
「???」
とりあえず情報を集めようと図書館内に入り、2階の「大人コーナー」・・・なんか卑猥だな、違った、「一般図書室」のカウンターに座っていた色白の女性司書さんに恐る恐る声をかける。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが・・・」
京都銘菓・生八つ橋「夕子」のイラストを思わせる穏やかそうなその女性は目を挙げ、目の前に立っていたジーパンにライダースジャケット、赤いティーシャツと頭にグラサンというB級やさぐれ映画のチンピラのような格好のあたくしを見て一瞬ひるんだような顔をしたが、すぐに静かな笑顔で話を聞いてくれた。
「申し訳ありません、その古墳について私には分かりませんので奥で確認してまいります。」
親切にそう言うと扉の奥に消えた。
次に現れた時、彼女の手には一冊の古書があった。
「申し訳ありません。この周りで古墳が実際見られるかわかりませんで、今お調べしておりますが、とりあえずこう言う地域資料がございますので参考になれば・・・」
この生八つ橋の夕子さん以外に扉の奥の見知らぬ職員さんにも協力してもらっていると知り脇汗。本当にお手数お掛けいたします。ありがたく拝読せねばと渡された古書のくすんだ萌黄色の表紙を開いた、が・・・
うっわ、まっったくわっかんねえ・・・。
そこには発見された古墳群についての数値的情報やら図やらがぎっしりと書かれていたのだが、いかんせん、全く何のことやらわからない。
そりゃそうだ。これ見て理解できたらあたくし古墳にコーフン協会でノンポリ第一会員なんか張ってねえよ。
しかし、相手はさすがにあたくしのことをウチの伊藤理事長レベルの知識は持っていると思っているにちがいない。
ドギマギしながら「必殺!わかったような顔」でパラパラと地域資料をめくっているうちに、今度は奥から痩せた天知茂のような眼光の鋭い男性職員さんが出てきた。手にコピー用紙の束を持ってらっしゃる。
うわあ、またなんか親切にしてくれてる!!
だんだん、本気で申し訳なくなって逃げ出したくなってきたが、とりあえず説明を聞く。
「ちょっと、この辺で見られるという情報ははっきりとわかりませんが、仰っている古墳についてのインターネットサイトの情報と古墳群についての情報がこちらになります。お持ち帰りはいただけないのでよろしければコピーはご自由にどうぞ」
そうさりげにカッコよく言い残すと、天地茂氏は去っていった。
その背中と「あまりお役に立てず・・」と申し訳なさそうにおっしゃる夕子さんに丁重にお礼を言い、本と書類を持ってコピー機に向かう。
図書館の廊下で数枚のコピーを取りながらふとあたくし、なんか今日はいい日だなあ、と思った。
古墳は見られなかったけど、なんか人っていいなあ、と。思ったわけである。
ぎふ屋の店主しかり、図書館の夕子さんに天地さんしかり・・・
今度この資料まりこふん会長に持ってって見てもらって、ついでに一緒に古墳巡りをしてもらおう。一緒に死ぬほど迷ってもらおう。
「古墳巡り未遂」秋のステキなお散歩だったなあと、うまい棒シュガーラスク味を頬張りながら歩く新井薬師の夕暮れ時でございました・・・。
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