第四十三回「紀州浪漫古墳考」
投稿日:2018年2月18日
ながのご無沙汰をしておりました。
よもやお忘れの方もいらっしゃることかと存じますが、あたくし古墳にコーフン協会の第一会員にしてノンポリ代表・イチキ游子と申します。
このようにコラムなど書かせていただいております。
あたくしが在籍していること自体が協会最大の謎と言って過言でないほどの古墳白痴でございますが、古墳巡りは楽しいです。
ま、どうでもいいよネ♬
1月末、普段はあまり関東を離れることのない出不精のあたくしが、友人を訪ねるという目的で珍しく関西方面へ出向くことになった。
知らない土地の友人宅でのんびりしていたある日、突然友人が言った。
「明日、ドライブに連れて行ってあげましょう」
おお、ドライブとな!!
生まれてこのかた自動車の運転とは無縁の人生を送ってきたため、乗せてもらえればたとえ最寄りの駅前まででもテンションだだ上がりになる人間なので、
「どこへ連れて行っていただけるのですか?」
とワクワクしながら尋ねると
「和歌山です」
と返ってきた。
わ、わかやま・・・。
そ、そんな遠くまで?県が違うじゃん!とビビりながらも、日本地図がアンインストールされているあたくしの脳には和歌山が実際どれくらいの距離なのか分かるはずもなく。
聞けばだいたい2時間くらいとのこと。
和歌山県といえば、毎年お正月に頂く美味しい紀州の梅干しと、疎遠の親戚がいたようないないような記憶がおぼろげにあるくらいで他に何も思い当たらない。
いや、むしろいいじゃないか、目的なき紀州の旅!目的なき・・・目的・・・
その時、あたくしの脳裏に久々にあのフレーズが発作のように飛び出してきた。
(古墳、あるかな)
出たよ!また出たよ!あんた古墳に興味ねーじゃん!見たって円墳と前方後円墳の区別もつかねーじゃん!なんで毎回古墳チェックするの?!
出先の駅前で「み◯ほ銀行」探すみたいな無意識の条件反射やめなさいよ!それ完全に洗脳だから!
などという心の葛藤があったものの、結局聞いてみると友人曰く、自分はよく知らないが和歌山にはけっこうな数の古墳があるらしいとのこと。
そ、じゃ、ま、なんとなく時間があったら・・・ということでコースに加えていただくことになった。
当日。快晴の高速道路をぶっ飛ばす車内で和歌山の古墳がどこにあるのか検索。
ノンポリとはいえこれは入念に下調べをしなくてはならない。
なぜならあたくしが古墳白痴で相手は古墳一般人だから。ギター初心者が一人で楽器屋に弦を買いに行くようなものである。
遭難上等の特攻隊長・まりこふんとのアドベンチャーとはワケが違う。知人まで巻き込んで迷ったら終わりである。
などと考えながら、以前訪れた北海道で仕事先のプロデューサーに車で連れて行っていただいた江別古墳群のことが頭をよぎる(第12回「最北端古墳考」参照)
友人が向かっているのは和歌山県の「御坊市」というところであった。ゴボウと読む。
予定通り約2時間で到着。
車窓から見上げれば、ああ山と空!ああ素晴らしきなんにもなさ!目を瞑ると風に同化してしまいそうな癒しの空間・・・。
この御坊市、あの安珍と清姫伝説で有名な道成寺がある場所だという。これまた別口で楽しみ。あとで行きましょう!
ところで検索の結果、御坊市だけでも確かに幾つかの古墳があるようで、「秋葉山古墳群」「壁川崎古墳群」「岩内一号墳」などの名称が見つかった。
その中でどこに行くかと相談していたが、所在地の住所が割合とはっきりしていることと、写真で見たところ素人目にもわかりやすく「古墳」してた「岩内一号墳」を目指すことになった。
ところが、ネットで見た住所をナビに打ち込むも、番地自体がない。うう、まさかこれはアドベンチャーへのプレリュードか・・・
怯えながら「なければ、また、次の機会にでも・・・」と、いつとも知れぬ次回へ向かって逃げ腰になるあたくしに、
「いやいやとりあえずナビでわかる最も近い住所まで行ってみましょう」
と言う友人。すげえや、あんたならまりこふん会長にタイマン張れるかもしれないぜ!
車も人も通らない細い坂道を一進一退しつつ進む。
しばらく走っていると、ネットで見た看板を発見。
あたくし、この目的の古墳の看板を発見する瞬間が一番好き。グッとくる。
「あ、あった!」
と言うあたくしの歓喜の声に、通り過ぎてしまった分をUターンで引き返す友人。
看板脇あたりに止めて歩いて行くかと思いきや、細く急な土の坂道を車で突破。大門軍団かと思った。
登りきったところで車を降り、キョロキョロ見回すと見慣れた古墳の説明板。
読むのは後にして、とりあえず一歩踏み入れたところ、あったー!
すごい、すごいキレイな可愛らしい円墳が、寒空の下、ほんのりひなたぼっこをするように鎮座していたのであります。
まさに、ザ・古墳!
こんもりとキレイな曲線を描き、中央に石室の中を覗けばあたくしの自宅とは比にならない清潔感。
よほど丁寧に管理されていると見え、無駄な雑草ひとつなく、石室の門の前には新しいお花が飾られている。
変な言い方だが、超初心者向け!
こんなに見やすくて美しい古墳、個人的には山梨の加牟那塚古墳以来やもしれない。
墳頂からのビューも素晴らしくのどか、静謐で爽やかな空間でしばし佇む。
御坊市とゆかりが深い友人も「こんなとこ初めて来た」と感慨深げだった。
こんな素敵な古墳だが、じゃあ一体誰のお墓なのだろう・・・?
そう思った途端、説明板をまだ読んでいなかったことに気づいて戻る。
「昭和24年の発掘調査で、漆塗木管、銀線蛭巻太刀1振、六花形の鉄製棺飾金具が発見」(説明板より引用)
と、副葬品や造営法からかなり位の高い人物であったと想像されるとのこと。
特定はされていないものの、謀反の罪で処刑された悲劇の皇子「有間皇子」ではないかという説があるらしい。
有馬皇子って、歴史の教科書で見たことあるぞ!そんな有名でドラマチックなお方の古墳なのかと思うと、仮説とはいえなかなか浪漫的でグッとこみあげるものを感じるノンポリ。
この岩内一号墳、「一号墳」というだけあって他に「三号墳」もあるらしいのだが、さすがに今回はこれ以上のアドベンチャーは求めずにビギナーに最適な此処一択で古墳見学は終了。
その後は友人と念願の「道成寺」でお坊さまのウイットに富んだ「安珍と清姫伝説」の語りに聞き入り、南紀白浜の美しい海を眺め、温泉入って帰路に着くという充実の和歌山ホリデイを満喫したわけでございます。
まだまだ素晴らしい古墳がたくさんたくさんあるようでございますので、これをお読みの古墳勇者諸君は是非この春、和歌山 de アドベンチャーを!!
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